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別れのキス

今年になって、すでに五回も葬儀に参列した。叔母、伯母、友達の父親、友達の夫。

 50歳を過ぎれば、同世代の友達の結婚式はほぼ皆無で、親や夫の最後を見送る葬儀に参列することが多くなる。その都度、自分はすでに人生の三分の二は生きてきて、もう若くないんだなと実感せざるを得ない。

 色々な葬儀に参列しているが、通夜と告別式を執り行うのはワンパターンである。お線香の香りに包まれた斎場で、お坊さんのお経にお焼香。遺族の悲しみの嗚咽。出棺時の最後のお別れの悲しさ。これが今まで私が参列した葬儀のパターンだった。


 しかし、今週の五度目の知人の奥様の葬儀は明らかに違っていた。無宗教でひっそりと、それでいて心のこもった葬儀が故人とそのお連れ合いの意向であった。お坊さんもお線香もお経もない。参列者が奥様の生前の美しいお顔の遺影に芳しい香りを放つお花を献花し、その死を悼んだ。

 司会のマイクは女学校時代に故人と一番親しかったお友達に向けられる。若かりし頃の故人の人生が強烈な臨場感を持って甦ってくる。私は74歳で天に召された故人の可憐で気丈な少女時代を全く知らない。しかし、その同級生がつむぎ出す言葉に、故人の少女時代が見事にフラッシュバックしてくる。

 告別式の出棺時の最後のお別れは、不謹慎かもしれないが、悲しいというよりも感動的だった。奥様の死で憔悴しきったお連れ合いは、顔を棺の中に深くうずめ、死化粧で一段と美しくなった奥様の唇にご自分の唇を重ね、長いキスを交わしていた。

 映画「ニューシネマパラダイス」のラストシーンで数々のラブシーンが映し出されるが、そのどれよりも棺のキスシーンは美しかった。深い愛情が会場に充満する。別れの悲しさが会場を沈黙させる。愛が深いからこそ、最後の別れは残酷なほど痛々しい。私は泣くまいと思っていた。故人が明るく気丈な方だったから、涙が嫌いだと思い、ずっと我慢していた。が、このロングキッスを見ていたら、こらえきれなくなって涙がとめどもなく流れてきた。

 この世で最後の名残惜しいキスを交わした後、お連れ合いの華奢なガラス細工のような瞳からも大粒の涙が溢れていた。

 すると、棺のふたがゆるやかに閉じられた。
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